初学者のための過冷却液体

初学者のための過冷却液体

概要

液体の温度を下げると、ある温度で結晶への一次相転移が起こる。 しかし、ある条件下では結晶化せず、準安定相に保つことが可能である。 このようにして液体は過冷却相に入る。

過冷却液体については非常に豊かな現象論があるが、まだ完全に理解されているとは言い難い: まず、結晶化をどのように防ぐか、そして準安定限界に達する前に液体をどれだけ深く過冷却できるかという問題がある。 しかし何よりも過冷却液体の最も興味深い特徴といえば、動的なガラス転移である: ある温度以下において、緩和時間が飛躍的に長くなることで、ダイナミクスが急激に遅くなって妥当な実験時間内に系を平衡化することができなくなる。

ガラス転移は、その物理的起源について過去 100 年にわたり大きな関心を呼んできた現象である。 なぜ起こるのか? それは単なる慣習的な基準点なのか(補足: 特に物理学的には意味がなく面白くないのか)、それとももっと深い物理的意味があるのか? 純粋に力学的な現象なのか、それとも真の熱力学的な相転移の現れなのか? 緩和時間の急激な増加に関連する相関長は何なのか? 新しい種類のアモルファス秩序を定義できるのか? 過冷却液体とガラス転移に関する共通の理論はまだ存在せず、これらの疑問はまだほとんど未解決である。

ここでは、過冷却液体の主な現象論的な特徴を最も初歩的な部分から説明し、このテーマに関するいくつかの理論的アイデアをごく部分的に議論する。

紹介

これは “Supercooled Liquids for pedestrians” (Andrea Cavagna 著)を邦訳したものである。

このノートは僕が学部 4 年生で非平衡物理の研究室に飛び込み、ガラスについての研究を行うことになったときに初めて教授から受け取った論文である。 これを読めばガラス転移の基本的な枠組みを捉えることができる、とは言われたものの、不勉強な学生だったので未だ読み切っていない。

久しぶりに本棚を漁っていたらたまたまこのノートを発見した。 これもまた縁かと思い、時間ができた今になって、翻訳を通じてこのノートをすべて一通り読むことにした。

僕も一応修士号を取得するまでの 3 年間ガラス転移の研究をしたとはいえ、研究としてはほぼシミュレーションの作成に従事しており、ガラス転移自体も非常に難しいトピックであるため、この翻訳が完全に正しいことは保証しないし、理解しきれないところは直訳になっている箇所も多々ある。 でも、私の学習の軌跡が後輩やガラス転移について興味のある読者の役に立つことを祈っている。

このノートの読者層は本ノートの導入にもある通り、統計物理学に対して一定の理解がある者を想定している。 予めご了承頂きたい。

目次

  1. 導入
  2. 前提となる知識
    1. 剪断緩和時間と粘性
    2. 拡散係数と Stokes-Einstein 則
    3. 準安定な平衡状態?
  3. 結晶化
    1. 核形成入門