Concertina 講座 | ICF 2025
主なテーマとして、Barndance と Reel の演奏を比較しながらコンサティーナで演奏する上でのリズム感を養うことを皆さんと一緒に実践していきます。 また、コンサティーナ特有の装飾技法についてもお話しします。
- 楽に演奏するための構え方
- 良い演奏をするためのリズムの捉え方
- コンサティーナならではの装飾
課題曲については、曲覚えの時間を取らないつもりです。 予め予習しておくとスムーズだと思います。 初心者から経験者まで全員にとって実りある時間になってほしいと思っているので協力よろしくお願いします。
今のところBarndanceに多めの時間を割こうと思っていますが、受講者の希望次第でReelの配分を決めようと思っています。 また、質問や議論も講座の時間内外かかわらず積極的に受け付けます。 ここで聞いてくれても結構ですし、何らかの手段で僕に直接聞いても大丈夫です。 私の答えられる限り全力で対応します!
課題曲
リズムの異なる 2 曲を選びます。 両方できるかわかりませんが、Barndance を中心に旋律が追える程度に練習してみてください。
ABC 譜で書かれているので、適宜 https://editor.drawthedots.com 等で音を確認してください。
The Glens Of Tara (Barndance)
名古屋の Shamrock セッションで頻出の Barndance です。
個人的に、Barndance は楽しくコンサティーナを始めるのにピッタリのリズムだと思っているので採り上げました。 Barndance は Reel よりもパルスが強いのが特徴です。それを踏まえて練習してみてください。
X: 1
T: The Glens Of Tara
K: Gmaj
R: Barndance
M: 2/2
Q: 80
L: 1/8
|: Bc | d2G2 G2AB | c2E2 E2AG | FGAB cBcd | e2d2 B3c |
| d2G2 G2AB | c2E2 E2AG | FGAB cAFG | AGGF G2 :|
|: Bd | g4 f4 | efec A3G | FGAB cBcd | e2d2 B3d |
| g4 f4 | efec A3G | FGAB cAFG | AGGF G2 :|
サブスクリプションでは取り扱いがないのですが、irishtune.infoにて最初の 12 秒を聴くことができます。
なお、Barndance は馴染みない方もいらっしゃるかもしれません。 以下の音源は Barndance のリズムを取るための参考になるので紹介しておきます。
The Humours Of Carrigaholt (Reel)
Dympna O’Sullivan が好きなので、彼女の弾いている音源から採り上げました。
装飾を差し込みやすい箇所がいくつもあるため、自分なりにアレンジを考えてみてください。
X: 1
T: The Humours Of Carrigaholt
K: Dmaj
R: Reel
M: 2/2
Q: 90
L: 1/8
|: dcAF GBAG | F2DE FGAB | =cBAF G2FG | Addc dgfe |
| dcAF GBAG | F2DE FGAB | =cBAF G2FG | Addc d3e :|
| fddd fdgf | edcd efga | fddd fdgf | edcd e3g |
| fddd fdgf | edcd efge | a2fa gfec | dfec d3e :|
サブスクリプションでは取り扱いがないのですが、irishtune.infoにて最初の 12 秒を聴くことができます。
講座内容
はじめに、本講座では特定の技術を身につけることを大きな目標としません。 現時点でのアイリッシュコンサーティーナに対する私の捉え方、考え方を伝えることで、これまでと違った視点でアイルランド音楽に対して向き合える機会になればいいな、と期待しています。 特に私が現地で知り、体感した Lift という概念については受講者全員に伝わるまで時間を割こうと考えています。
弾き方
コンサティーナは演奏に割と力が必要で大きな筋肉を効果的に使う構え方が大事だと考えています。 ハリのある音が鳴らない、すぐ疲れる、身体が痛くなる、といった悩みがあるなら楽器の弾き方から見直してみましょう。
リラックスできる構え方
- 姿勢良く座る
- 楽器の方を見ないように心がけるとやりやすい
- 巻き肩になると肩が痛くなりやすい
- 楽器を身体の方に寄せ、少し立てる
- 二の腕がリラックスする感覚があるとよし
- 楽器を身体から離すと巻き肩になりやすい

効率の良い力の伝え方
肩や胸など身体の大きな部分を使えるかどうかを意識してみましょう。 腕や指はなるべくリラックスして、演奏の細かい表現を加えるために余力を残しておくのが肝心です。
持ち方
楽器を持つ際、親指の腹側の付け根、人差し指の甲側の付け根、小指の付け根の3点で支持します。 こうすると指をリラックスして蛇腹を操作することができます。 たまにボタンを押す指を使って蛇腹も操作する人がいますが、これは指に無理な力が掛かって痛める原因になりますし、操作性も落ちるので避けるべきだと考えています。
蛇腹の扱い
蛇腹を広げるとき、蛇腹を片足の太ももに乗せて正面から見て蛇腹が扇状に広がるように動かします。 このとき蛇腹が乗っている太ももを支点として蛇腹を下方向に押すようにして広げると、テコの原理で体重を使えるので力まずに大きな力を伝えられるはずです。 蛇腹を閉じるときは胸の筋肉を使って閉じることを意識します。
構え方の部分で楽器を立てると書きましたが、これは力を効率的に伝える上でも有効です。 楽器を身体に寄せて立てれば立てるほど、楽器に身体が乗っかる形になって楽に体重を伝えることができます。 ただし蛇腹を扇状に広げる都合上、使える蛇腹内の空気が減ってしまう点にだけ気をつけてください。

リズムに対する向き合い方
アイリッシュ音楽の演奏で最も重要なのは、タイトな拍(リズムの安定)と豊かな抑揚(音の波)を両立することだと考えています。
アイリッシュ音楽は、もともと伴奏なしのユニゾンで演奏されるダンス音楽として発展してきました。 そのため、一人ひとりが旋律を演奏するだけでなく、リズムについても各々が主体的に生み出す必要があります。
さらに、アイリッシュ音楽には Lift と呼ばれる特有の抑揚があります。 これは単なる表現の一部ではなく、拍のまとまりの中に波を生み出し、ダンス音楽の根幹を担うリズムと躍動感を与えます。 Lift のある演奏は聴いているだけで体が自然に波に乗るように突き上げられ、ダンスのステップを誘います。 逆に Lift のない演奏は、音符が並んでいるだけで、躍動感のない平坦なものになってしまいます。
どれだけ速く弾けても、かっこいいアレンジを入れても、装飾を細かく加えても、リズムが崩れていたら音楽として成立しません。 まずはアイリッシュ音楽の根幹を担う Lift をしっかりと体感し、アイルランド音楽の持つ躍動感を身につけていきましょう。
Warning
Lift は曖昧な概念であり、奏者の間でも意見が分かれるものです。 今回紹介している内容は私なりの解釈だと思ってください。
拍
拍 とは、一定の時間的な間隔を持って刻まれるリズムのことです。 メトロノームの click! click! に合わせて練習している人もいるかもしれませんが、まさにそれです。
これを規則的にいくつかまとめることで拍子になります。 例えば2つの拍を 1 セットにすれば 2 拍子、4 つまとめれば 4 拍子です。
アイルランド音楽にも様々なリズムがありますが、大まかには拍子によって分類できます。 Polka, Jig, Reel, Barndance などは 2 拍子、Waltz, Slip Jig, Hop Jig などは 3 拍子、そして Hornpipe, Slide, Fling などは 4 拍子です。 ABC 譜っぽく視覚的に表すと以下のようになります。
x: 8分音符
Polka | xx xx | xx xx | ... # 2/4 拍子
Jig | xxx xxx | xxx xxx | ... # (3 + 3)/8 拍子
Reel | xxxx xxxx | xxxx xxxx | ... # 2/2 拍子
Hornpipe | xx xx xx xx | xx xx xx xx | ... # 4/4 拍子
拍を理解することは大切ですが、拍を感じるだけでは不十分です。 なぜなら、拍は音のまとまりを分割する仕切りに過ぎず、そのまとまりの中のことに着目していないためです。
例えば、先程の xxxx xxxx
というリズム表記を見ると、まるで音が等間隔に並んでいるように思えるかもしれませんが、実際のところそうではありません。
第一、拍に注目するだけでは Reel と Barndance を区別できません。
リズムの持つ特徴や表情を掴むためには拍のまとまりの中にある波を捉える必要があります。
Lift
Lift とは、アイルランド音楽の躍動感を指す言葉です。 単なるテンポや強弱の変化ではなく、フレーズの自然な流れや、音楽のうねりを生み出す重要な要素です。 元々はダンスで使われる言葉のようですが、現地の奏者は拍まとまりのことを指すときもしばしば Lift と表現していました。 よく他の分野でグルーヴと表現されるものに近いと思いますが、 Lift は言葉の通り下から持ち上げられる感覚に焦点を当てている点で異なります。
今回は、Lift の中でも特に拍のまとまりの中にある上下の波に着目し、その演奏への影響について考えていきます。
Lift はどのように生まれるか?
Lift がどこからやってくるかを辿るために、波がどういう動きをするかについて書きます。
拍のまとまりの中にある波は、単純な上下運動ではなく、時間の経過とともに独特な軌跡を描きます。 実際には音の強弱(: Accent, Stress)やタイミングのわずかな揺れ(: Swing)によって、リズムに立体的な抑揚が生まれます。 この抑揚の動きを視覚的に捉えるために、私は 「波の軌跡を円状に捉える」 という考え方を用いています。
私は、拍のまとまりの始まりの音では波が素早く落ち、真ん中あたりで力強く戻ってくると感じています。 この動きは直線的ではなく、ある種の円を描くような動きを伴っています。 これを不均一な円の形として表すと、きっと以下のようになると思います。

円状に表した lift
さらに、2/2 拍子で言えば、拍の2, 4 番目の音は均一なリズムに比べてわずかに遅れてやってくると感じています。 また、波が落ちる前、持ち上がる前には、一瞬の予備動作があり、この予備動作が一種のタメの役割を担って波のコントラストを際立たせ、リズムに奥行きを生み出すと考えています。

lift の時間経過
このように、拍の中のリズムは完全に均等なパターンではなく、細かいタイミングや抑揚にわずかな揺れがあります。 このような微妙な不均一さが音楽のリズムに自然な緊張と緩和を生み、それが lift へと繋がると考えています。
Lift の強さとリズムの種類との関係
Lift はすべてのリズムに共通して存在しますが、その強さには違いがあります。
例えば、Barndance では 2 拍ごとに Lift がくっきりと形作られます。 一方、Reel では Lift はより緩やかで、波の変化が Barndance ほど明確ではありません。 この違いこそが、拍だけを見ても Reel と Barndance を区別できない理由なのです。
また、Reel の Lift はより柔軟に変化します。 Lift が相対的に弱い Reel では、音楽の流れを作るために、 緊張と緩和をより強く引き出す工夫が必要になります。
そのために上がる波のタイミングが意図的にズレることがあります。 すると音の流れが引っ張られたり、それが解放されたりすることでより生き生きとした躍動感が加わります。 また通常は落ちる波が来るはずの部分で、逆に持ち上がる動きが強調されることもあります。 これらにより、リズムに意外性が生まれ、生きた演奏になると考えています。
このように、Reel では Lift の波が柔軟に変化し、それがリズムの多様な表現に繋がると考えています。
紹介
Mark Donnellan が所属する Tulla Ceili Band や Martin Hayes, Mary MacNamaraのような奏者の演奏は特に強烈な Lift が特徴です。 ぜひ聴いて身体が浮き上がる感覚に身を委ねてみてください。
最後に、 Lift について議論が交わされている掲示板を紹介します。
- How do you define lift? | The Session
- Finding the lift | The Session
- The theory of lift | The Session
- Lift and swing Irish Rythmns | reddit
参考にしつつ、ぜひ皆さん自身でも考えてみてほしいです。
リズミカルに弾くための練習法
さて、ここまで 拍 と Lift について書いてきましたが、これらを感じとって演奏するために私がしてきた練習法を紹介します。 便宜上、テーマに分けて説明していますが、実際にはこれから挙げる題材を組み合わせて練習しても構いません。
持ち上がる波を感じて弾く
Lift という言葉の通り、持ち上がる波はアイルランド音楽の特徴的な抑揚を作るために一番大事な部分です。 上がる波を感じれられるとリズムを2倍のタイミングで感じることになって演奏にグッと安定感が出てきますし、まとまりに表情もつくようになひます。
ですが、上がる波は落ちる波と違って拍のまとまりの途中に出てくるため、意識し辛くズレやすいです。 そこで、メトロノームを使って強制的に上がる波がくるタイミングを自覚できるようにします。
o: メトロノームを鳴らすタイミング
2/2拍子: | xxox xxox | ...
6/8拍子: | xxo xxo | ...
2/4拍子: | xo xo | ...
4/4拍子: | xo xo xo xo | ...
落ちる波が来るタイミングは自力で頑張り、その上でメトロノームの click で身体が持ち上がる感覚を掴みます。
気をつけるべき点としてメトロノームの部分で単に強く弾くのではないです。 あくまで波の形保つように弾きましょう。
旋律の長音を正しいリズムで弾く
付点 4 分音符や 2 分音符のような長い音は長さを端折ってリズムが崩れやすい上、弾いてる身としては自覚しにくいため、速い旋律よりも厄介なものです。 長い音を適切に捉えることができるとリズムの改善が見込めるだけでなく、大らかな抑揚をつけたり、音を省くアレンジを取り入れたりして無理なく緩急のある演奏ができるようになります。 まずは親しみのある曲からで良いので、特徴的な旋律だけ残して長い音を増やしたものをゆっくりと弾いてみましょう。
課題曲の Glens Of Tara を題材にして次のように弾いてみます。
X: 1
T: The Glens Of Tara
K: Gmaj
R: Barndance
M: 2/2
Q: 80
L: 1/8
|: d2G2 G3B | c2E2 E3G | FGAB c3d | e2d2 B3c |
| d2G2 G3B | c2E2 E3G | FGAB c3G | AGGF G4 :|
|: g4 f4 | efec A3G | FGAB c3d | e2d2 B3d |
| g4 f4 | efec A3G | FGAB c3G | A2GF G4 :|
曲全体のタイム感を確認する
上記の練習を十分にこなした後に、メトロノームの誘導なく自分の中で正しいリズムを作れているかの確認をします。 これには 2 小節おきに小節の頭にだけメトロノームを鳴らして弾くことで確認できます。
o: メトロノームを鳴らすタイミング
4/4 拍子: | ox xx xx xx | xx xx xx xx | ox xx xx xx |...
コンサティーナ特有のテクニック
Coming Soon…
運指
Coming Soon…
装飾
Coming Soon…
更に良い演奏をするための考え方
Feakle で Mary MacNamara さんのワークショップを受けた際、「どうすればより良い演奏になるのか」を段階的に実演していたのが印象的でした。 皆さんも、この流れを意識しながら自分の演奏を考えてみてください。
- 音符をなぞった演奏
- 楽譜通りに正しく弾いているが、ダンスの動きにはつながらない
- 機械的で、単に音符が並んでいる状態。
- Lift を加えた演奏
- 音楽に波が生まれ、自然に体が動きたくなる感覚が生まれる
- ここで初めて「アイリッシュ音楽らしさ」が出てくる
- 曲にしたもの
- フレーズごとのまとまりを意識し、音楽の流れを作る
- テクニカルな装飾を加えることで、より表情豊かに
- 本講座で書いた内容はここまで
- 個性を加えたもの
- 自分の心の内側から出てきたアレンジを乗せる
- 他の奏者の影響を受けつつ、自分の解釈を音に反映する
- 気持ちを乗せたもの
- 自分の心の内側から出てくる強弱や緩急を、自然に表現する
- 曲に込めた想いやその場の空気を音に反映する
- 幸せを詰め込んだもの
- 今、演奏できている喜びを音に乗せる
- 聞く人に幸せが伝わり、一体となる